第9 退職金
(1)就業規則や労働協約、労働契約等で退職金を支給すること及びその支給基準(基礎額や支給率等の計算方法)が定められ、この定めに従って使用者に支払義務がある場合
→ 退職金について、賃金と解される(昭和22年9月13日発基17号)。
→ 支給すべき義務がある。
(2)就業規則には退職金規定が存在しない場合であっても、従前、就業規則の明確な約定に代わり得るほどの事実の集積がある場合
→ 退職金支払の労働慣行の存在が認められる(東京地裁判決昭和48年2月27日)。
→ 支給すべき義務がある。
※ これを否定した判例:大阪地裁判決 昭和54年11月27日
(3)明確な規定や労働慣行がない場合であっても、当事者間の合意がある場合
→ 合意に基づき支払義務が発生する(東京地裁判決 平成2年2月23日)。
※ これを否定した判例:東京地裁判決 平成元年10月20日(社長が、「労に報いたい」と言った。)
(4)退職金を支給するか否か、いかなる基準で支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている場合
→ 恩恵的給付
(1)退職金規定中に、懲戒解雇または懲戒解雇事由が存在するときは退職金の全額ないし一部を不支給にする条項が必要。
(2)これがある場合でも、退職金を失わせるに足りる懲戒解雇の理由とは、労働者に永年の勤労の功を抹消してしまうほどの不信があったことを要し、労働基準法20条但書の即時解雇の事由より厳格に解するべき(名古屋地裁昭和47年4月28日。大阪高裁判決 平成10年5月29日。)。
※ 諭旨解雇の退職金不支給条項につき、自己都合退職者と
同率の退職金を支払うべきとしたもの(名古屋地裁判決 昭和49年5月31日)。
(3)逆に、在職中に重大な背信行為を行っていた場合、労働者からの退職金請求が権利濫用として認められない(東京地裁判決 平成12年12月18日)。
労働協約や就業規則等の内容によるが、退職金規定が正社員のみを対象にしており、現実の取扱いもそのとおりに行われているときには、退職金規定の適用ないし準用はない(東京地裁判決 昭和56年1月28日)。
退職金についても、会社法361条1項の適用を受ける(大阪地判昭53・4・28、昭56・5・11、昭57・9・27)。
ただし、従業員たる地位を兼有している場合(大阪高裁判決 昭和53年8月31日)や、取締役たる地位が名目にすぎない場合には、従業員として、退職金規定による退職金請求権があるものとされる。
従業員性の判断要素(以下の総合衡量。全てを満たす必要はない。)
※ 以下の@〜Cについての参考判例:東京地裁判決 平成5年6月8日
E・Fについての参考判例:最高裁判決 平成7年2月9日
@取締役就任前に従業員として雇用されていたか、
A取締役の就任前後によって従事していた業務内容に変化があるか、
B会社経営に参画していたか、
C雇用保険の被保険者であったか、
D勤務時間についての管理(タイムカードなど)を受けているか、
E決裁権限があるか、
F指揮命令を受けているか、など